MZ RACING デイトナ24時間レース

デイトナインターナショナルスピードウェイは、アメリカ・フロリダ州中部の中心都市オーランドの街から北へ約70マイルのところにある常設レーストラックである。

毎年2月中旬に行われるNASCARの最大イベント「デイトナ500」の舞台として知られており、一度に収容できる観客は外周に沿った巨大なグランドスタンドとキャンピングカーサイトを含むインフィールドエリアをあわせると20万人以上と言われている。

そのデイトナ500の3週間前に、毎年アメリカンモータースポーツの開幕戦として開催されているのが、Grand Am Rolex GTシリーズ第1戦「デイトナ24時間レース」である。

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アメリカンレースの象徴とも言えるストックカーが走る外周のオーバルコースは2.5マイル(4km)で、インフィールドを加えると3.75マイル(6km)の24時間コースとなる。

かつて、デイトナ24時間が、IMSAシリーズのプロトタイプやGTカーの耐久レースだった頃からこのレイアウトは不変で、「立っていられないほど」の傾斜、最大30度のバンクを含む高速部分のあとには、「馬のひづめ(International Hoseshoe)」ヘアピンコーナーに至るインフィールドの入り口で、フルブレーキが求められる。

このスロットル全開とフル制動の作業は、一昼夜にわたり一台あたり約700回近くが繰り返えされることになる。

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デイトナ24時間レースは、1970年代からから現在に至るマツダのモータースポーツヒストリーの中で、最も成功を収めたレースとして広く知られている。

1979年に発売直後の初代RX-7(SA22C)がデビュー・ウィンを飾って以来、RX-8がGTクラスで優勝した2010年までで各クラスの優勝回数は累計23回となっている。しかもライバルは常に、ポルシェやカマロ、BMWといったワールドクラスのスポーツカーだ。

このマシンへの負荷が高い過酷な条件は、耐久性と高速性能に長けた「マツダロータリー」パワーユニットにとっては、むしろ好条件であり、相性は抜群に良いと言える。

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それに加え、インフィールドの入り口はコース幅が狭く、フルブレーキで飛び込んでくるマシン同士の接触は後を絶たない。また、最も低い位置にあるため、路面が滑りやすいこともある。

さらに、順調に走っていたマシンが他車のクラッシュのあとの残骸を拾ってパンクしたり、ラジエターを壊すことも珍しくなく、24時間のうち無傷で生き残るマシンは皆無といっていいほどだ。

しかも、近くにビーチがある関係で、風のある日は砂が飛来してコースに降り注ぐことも稀ではなく、朝方には濃霧に見舞われることも多々ある。昼夜の寒暖差は、時に25度ほどとなり、路面の温度変化はさらに著しい。

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2008年と2010年の同レースでは、地元フロリダ・マイアミをベースとするSpeedSourceチームのRX-8がGTクラスで優勝し、2010年のシリーズチャンピオンカーとなったこともあり、本年のデイトナ24時間には、9台ものRX-8がエントリーした。

30台がひしめくこの激戦クラスにあって、RX-8は最大勢力だ。パイプフレームのシャシー前部に、自然吸気ながら450馬力を発生する20B型3ローターエンジンを積んだRX-8は、プロップシャフトからトランスアクスルを経て後輪を駆動している。4ドアクーペスタイルのボディパネルはフルカーボン製だ。

レギュレーションにより、今年からタイヤ銘柄がコンチネンタルに指定となった。

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今年は、SpeedSource RX-8の連覇なるか、あるいは急進成長株のデンプシーレーシングが持ち込む2台のRX-8のどちらかがそれを阻止するのか、に注目が集まった。最も新しいシャシーは、SpeedSourceのエースカー#70だ。昨年春からレースに投入されたマシンだ。しかし、スペック的にはどのRX-8もイコール条件だ。

1月上旬に行われた事前テストの結果から、今年はマシンの完成度が高いポルシェGT3やカマロGT.Rが速い、と言われていた。事実、予選はこの2車にBMWを加えたライバルが上位を占めていた。

しかし、多くの専門家は、耐久性と安定感では実績のあるRX-8勢が有利という見方をしていたようだ。

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デンプシーレーシングは、大病院を舞台にした青春医療TVドラマ「グレイズアナトミー」(恋の解剖学)で一躍スターダムにのし上がった俳優のパトリック・デンプシーが率いるチームで、過去に3回デイトナ24時間レースを経験している。

映画の撮影やテレビ出演で超多忙のデンプシーを支えるレギュラードライバーは、ツーリングカーレースで名を馳せたジョー・フォスターとフロリダ州タンパ出身のチャールズ・エスペンラウブのふたりだ。

さらに今回は、才能あふれる若手のトム・ロングがサポートするフォーメーションを編成してきた。昨年の同レースでは6位入賞しており、今回はポディウム以上が目標だ。

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デンプシー自身の決意を示すかのように、ビビッドなイエローとオレンジ、そしてレッドに塗り分けられた「Visit Florida」RX-8は、ひときわ人目を引いた。フロリダ観光局の支援を得ている。

木曜日に行われた公式予選では、チームサーレーンの#42 RX-8、SpeedSourceのエースカーに続く3番目のRX-8となった。そして、その派手なマシンは、決勝レースでも「運」を引き寄せることに成功する。

トップバッターのジョーがレースをスタートし、2番手パトリックへとつなぐ。この間も予想通り多発したアクシデントを避けて序盤を切り抜け、日付が変わるころには、#40 RX-8はクラス首位にまで上がっていった。

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夜半過ぎからレースリーダーとなったVisit Florida RX-8は、夜間のほとんどの時間、さらにそのあと2時間半に及ぶ濃霧の中のコーションラップを経て、東の空が急に明るくなるまで、実に9時間もの間、他のGT勢を引き連れて走っていた。

セーフティカーに先導されたコーションラップは、マシンとドライバーのちょうど良い休養にもなった。当初は、「夜間には様々な波乱があるもの。先は長い」と高をくくっていたライバル達も、夜が開けても#40 RX-8の走りが非常に安定しているのを目の当たりにし、「そろそろ彼らを独走させておくわけにはいかない」、と思い始めていた。

その緊張感も手伝ってか、#40 RX-8の首位からの転落は意外にも突然やってきた。

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気温が上がり始めた午前9時半過ぎ、2位以下に十分なリードをキープしていた#40 RX-8は、インフィールドに入るアプローチでスピン。退避路にストップしてしまう。そして、なかなかエンジンが再スタートできずにいるうち、後続が迫ってきた。

モニター映像を見守るデンプシーレーシングのピットは、騒然とした。これで万事休すか。エンジン交換には時間がかかる。電気系のトラブルだと、さらに失う時間は大きいかもしれない。しかし、レッカー車に牽引されている間、幸運にもエンジンが息を吹き返した。ここで3ラップ分タイムをロスしたが、最悪の事態は免れることができたのだ。

チームは全員が胸を撫で下ろした。

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一時4位に順位を落とした#40 Visit Florida RX-8は、その後3位にポジションを回復。スピードウェイを覆い尽くしていた霧が晴れ、青空の広がりとともに気温が高くなるにつれ、アクシデントやメカニカルトラブルでロスするマシンが多い。中には、ガレージにマシンを戻して大工事を行うチームもあった。

そんな中、#40 RX-8は淡々と走り続けた。他のマシンのボディがぼろぼろになり、ボンネットフードやドアまで外れてしまったマシンもあったが、不思議とこのマシンはボディダメージが少ない。明け方にプロトタイプカーのボディアタックを受けたが、軽傷だった。

とはいえ、スピンアウトのあとの電気系トラブルが完全に解消したのか、疑問も残る。

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スポーツ競技では、「運」を味方に付けるのも実力と、よく言われる。今回のデンプシーレーシングには、まさに女神が宿っていたと言えよう。3ローターエンジンの甲高い雄叫びは、午後2時のフィニッシュまで少しも濁らずに澄み切っていた。

ただし、その女神は、24時間の長い旅の途中、一度だけ「いたずら」を仕掛けた。それさえなければ、デンプシーレーシングのGTクラス優勝は実現できたはずだ。しかし、きっと彼女は、彼らには「来年の目標を残しておくべき」と、思ったのだろう。

「来年また、ここでその走りの続きを見せてくださいね」、と。

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フィニッシュののち、ピット内の指令デスクに座っていたパトリック・デンプシーは、満面の笑顔でチームクルー達やドライバー、そして仲間達と抱き合い、歓びを分かち合った。

周囲のチームやライバルまでもが、彼らの大健闘に祝福の拍手を送り、TVカメラがデンプシーの一挙手一投足を追いかけた。ポディウムでのシャンパンファイトののち、メディアセンターで行われた記者会見に臨んだ彼は、「本当に今回のこのレースの結果は、僕にとって特別なことです」と結び、声を詰まらせた。

僅差で判定負けしたにもかかわらず、満場の祝福を受けたボクサーの映画を思い出した。

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